1 約50年間据え置かれた支払限度額
弁護士法人心東京法律事務所の小原です。
今回は、自賠責保険の限度額について考えてみたいと思います。
傷害につい
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弁護士法人心東京法律事務所の小原です。
今回は、自賠責保険の限度額について考えてみたいと思います。
傷害について、現行の自賠責保険の限度額は原則120万円です(自賠法施行令2条1項3号イ、自賠法13条1項)。
治療費、交通費、休業損害、診断書等の発行代、慰謝料等を含めて総額120万円までです。
限度額は、自賠法が成立した昭和30年以降、賃金物価水準の上昇等に連れて段階的に引き上げられてきました。
もっとも、1978年7月1日に改正自賠法施行令が施行され、限度額が100万円から120万円に引き上げられて以降、48年間据え置かれています(*1)。
2 政府見解
2023年1月13日に開催された第145回自賠責保険審議会(*2)では、細川委員(日本医師会)から、「限度額120万のカバー率(*3)は大体85%程度で、大部分をカバーしているというのは承知しておりますが、特にこれからは再生医療とか医療技術の進展、進歩によって医療費が大きくなることも考えられますので、カバー率だけではなく、120万を超えた事案がどのような分布であるか検証をしていただきたい」との意見が出ました。
これに対し、出口国交省保障制度参事官は、「自賠責保険につきましては、強制保険、公道を走るからには、すべからく自賠責保険に入っていただく必要があるという極めて強いものでございまして、そのために、保障の範囲というものが、最低限の基本保障を確保するという性質で制度として設計されているものでございます。
そういった性質を踏まえ、また、賃金、物価等の社会情勢、保険料率に与える影響、そういったもろもろのことも踏まえ、また、こちらのほうを見直すとなった場合に、自動車ユーザーの方の負担増にもつながり得るということもございますので、今後とも、もろもろの情勢を見ながら慎重に判断していく必要がある」と回答しています。
政府事務方の回答と限度額が48年間据え置かれている事実とを踏まえると、要するに、少なくともまだ限度額は上げないというのが国の回答と考えられます。
3 考察
確かに、自賠責保険は強制加入保険ですから、支払額を増やそうと思えば、税金で補填しない限りは、自動車ユーザーみんなの保険料負担は増えます。
しかしながら、もし、この48年間で医療費や賃金物価等の水準が上昇しているのであれば、それに伴い損害賠償額は増えているはずです。
それにもかかわらず、限度額は据え置くという判断は、いくら自賠責保険が最低限の基本保障を確保するという性質で制度として設計されているとしても、少々ちぐはぐに思えます。
受益者負担の考えに基づけば、被害者救済のためにより多くのお金が必要となれば、自動車ユーザーみんなの保険料負担も増やすしかないでしょう。
以下、医療費、賃金、物価を経年比較してみましょう。
4 検証
⑴ 医療費
厚生労働省の調査によれば、国民医療費は、2023年度:48兆915億円(*4)に対し、1978年度:10兆42億円(*5)であり、45年間で約4.81倍上昇しています。
⑵ 物価
2020年を100とした場合の消費者物価指数CPI(*6)を見ると、2025年:111.9に対し、1978年:65.5であり、47年間で約1.71倍上昇しています。
⑶ 賃金
厚生労働省の令和5年版労働経済の分析(*7)によれば、賃金水準は、2021年:535.75に対し、1978年:304.13であり、43年間で約1.76倍上昇しています。
5 まとめ
確かに、医療費が4倍以上になっている主因は高齢化と考えられますので、このデータのみに基づいて、限度額を4倍以上増額すべきとは思いません。
しかしながら、政府見解のとおり、賃金、物価等の社会情勢を踏まえるのであれば、そして、自賠責保険が受益者負担の考えに基づくことを踏まえれば、限度額を現行の1.7倍の200万円程度まで引き上げることは、検討してもよいのではないでしょうか。
*1 [損害保険料率算出機構HP]自賠責保険の保険金額および仮渡金の変遷
*2 [金融庁HP]第145回自動車損害賠償責任保険審議会議事録
*3 カバーとは、自賠責基準による算定額が120万円に収まることを意味すると推量する
*4 [厚労省HP]令和5(2023)年度 国民医療費の概況
*5 [厚労省HP]厚生白書(昭和53年版)
*6 [総務省HP]消費者物価指数
*7 [厚労省HP]令和5年版労働経済の分析